「シベリアのユニコーン」。
そんなロマンチックな異名を与えられたのが、
『エラスモテリウム』。
ユニコーンはご存知ですよね?
一本の角がある駿馬といった幻獣。
エラスモテリウムはそのモデルとされる、古代のサイです。
「馬じゃなくサイかよ!」
「ユニコーンが寒いシベリアにいるの想像つかないな~」
ユニコーンは、
お花畑できれいなお姉さんと一緒にいるイメージなんですが……。
だいいち、サイの角って鼻のところですよね。
ユニコーンは額に角なのに。
重戦車みたいなサイと、颯爽と走る馬も重なりません。
ツッコミたい部分も多々ある。
このエラスモテリウム、僕らが知るサイとはちょっと違います。
なんというか、
イメージのつかみにくい、変なサイなのです。
「ユニコーンのモデル」
なんて言われるサイですからね。
風変わりなサイなのは間違いない。
とにかく、エラスモテリウムは謎めいている。
現在のサイと比較しながら、
ユニコーンとの関係を深~く検討してみましょう。
目次
古代サイ『エラスモテリウム』とは?
エラスモテリウムは、古いタイプのサイ族です。
4種いました。
「シベリアのユニコーン」
と呼ばれるのは、
「エラスモテリウム・シビリカム」。
エラスモテリウムの代表種です。
なので、この記事の「エラスモテリウム」は、
シビリカムと思ってください。
マンモス並みの巨体
エラスモテリウムの体長は約5m。
体高も2.2mほど。
トヨタのハイエースより、一回り大きいといえばわかりやすいでしょうか。
現存サイでもっとも大きいシロサイが、
体長4m、体高180cm。
体重もシロサイが2300kgに対し、
エラスモテリウムは推定3500~4500kg。
小さめのマンモスにも匹敵します。
大型の古代獣『メガファウラ』のひとつですね。
メガファウラなら、
復活の可能性の夢もあります。
生息していたのは中央アジア。
今のカザフスタン、カスピ海の辺りです。
「シベリアと違うんかい!」
と思ったあなたは鋭い。
これは後で説明するので、
今はスルーしてください。
エラスモテリウムは、250万年前ほどに出現。
ただ、絶滅時期がはっきりしない。
35万年前には滅んだとされていたのですが、
新たな調査では最近までいたらしい。
2万9000年~2万6000年前の化石が出てきたのです。
その頃なら石器時代の人間もいた。
エラスモテリウムと人類は共存していた?
「シベリアのユニコーン」
の名がつけられたのは、この共存説が基になっています。
エラスモテリウムとユニコーンの類似点
エラスモテリウムの化石が見つかったのは、
19世紀初頭。
サイの仲間であることはすぐわかりました。
でも、他のサイと違う点も。
額の部分に、皿のような突起があったのです。
これは、
その場所に角があった証拠。
サイの角は「毛が固まったもの」なので、化石は残らないのですが、
その痕跡から頭蓋の持ち主は、
「額に角があった」
とわかるわけ。
突起の直系から、角は1mほどと判明。
額からまっすぐに伸びていたようです。
ユニコーンに近づいてきましたよ。
馬のような体型だった?
エラスモテリウムには、
まだ謎があります。
体のフォルムがよくわからない。
一般的には現存サイの形で、
長い体毛に覆われていたと考えられています。
同時代に繁栄していた「ケブカサイ」を参考にしたんですね。
でも、決定的じゃありません。
パイソンのように頭を低くしていたのか。
カバのような水陸タイプだったのか。
化石が少なく、判然としない。
足が長めなので、もう少しスマートな、
馬のような再現図もあります。
そうなれば、かなりユニコーン。
眉間の辺りから、一本角を生やしている動物なんていません。
牛や鹿はほとんど前頭部か頭頂。
サイは鼻面の角。
ユニコーンの正体とされる、イッカククジラの角は、上唇を貫いて伸びた歯です。
エラスモテリウムが、
ユニコーンに極めて近いのがおわかりでしょう。
どちらもアジアの未知動物
生息地も興味深い。
伝説によると、ユニコーンはインドの産といわれています。
エラスモテリウムは中央アジア。
昔のヨーロッパ人にとって、未知の東の国。
そこで、こんな仮説が考えられる。
「近年まで生き残っていたアジアのエラスモテリウムの伝聞が、ヨーロッパでユニコーン伝説になった」
無理な話ではありません。
イッカククジラはとても馬には見えない。
牛や鹿はほとんど二本角。
体型が馬に似ていれば、
エラスモテリウムが一番ユニコーンっぽい。
とすれば、鍵となるのは、
「エラスモテリウムがいつまで生存していたのか?」
になるでしょう。
ユニコーン説はあり得る!
エラスモテリウムが2~3万年前までいたかもしれない。
これは可能性が高そうです。
この時代、ユーラシア大陸にも広く人類が分布していました。
日本に人が住みだしたのもこの頃です。
当然、エラスモテリウムとの共存もあったでしょう。
しかし、その記憶がユニコーン伝説になったと決めつけられません。
当時はまだクロマニョン人のレベル。
壁画などはありますが、
伝説の聖獣を創作できる、文化の熟成があったとは思えないのです。
もちろん、文字や書物にエラスモテリウムは残されていません。
ユニコーン伝説のもっとも古い記録は、
紀元前4世紀。
ずいぶん時間差がある。
エラスモテリウムがもっと最近まで……。
文明人が現れる時代に生きて、目撃されているなら……。
「エラスモテリウム=ユニコーンのベース」
が成り立つ。
目を向けたいのは、太古の森が広がるシベリアです。
エラスモテリウムは最近までいた!?
シベリアに暮らすタタール族にこんな伝承があります。
「大きな角がある黒い牛がいた」
「運ぶのにソリを使うほど巨大な動物」
これがエラスモテリウムだったとしたらどうでしょう。
エラスモテリウムは、
思ったよりも広い範囲に生息していたようです。
そして、
1万年前に滅んだと思われていたマンモスが、
極地の島で、4500年前まで生きていたとわかった事例があるのです。
ピラミッドが建てられた頃ですよ。
高い文明も完成していたし、各地の噂も風聞されていたでしょう。
学者も、
「シベリア南西部でエラスモテリウムがしばらく生きていた」
可能性を示唆している。
これらを考え合わせると
・シベリアに近年までエラスモテリウムがいた
・その噂が文明域のヨーロッパに伝わった
・一本角の馬ユニコーンが生まれた
が考えられます。
これが証明できるかわかりません。
しかし、エラスモテリウムが今のところ、
ユニコーンに一番似ている動物なのも事実。
現在、サイはたった5種。
シロサイ、クロサイ、インドサイ、
ジャワサイ、スマトラサイ。
どれも絶滅が危ぶまれています。
密漁も原因ですが、
サイ自体が環境変化に弱く、応用力に乏しいこともある。
エラスモテリウムが。どこまで生き延びていたかは不明です。
「シベリアのユニコーン」
も、どこまで本当なのか……。
しかし、こんなロマンチックなサイが、最近までいたかもしれない。
その空想だけでも楽しいかな~と思うのです。
ユニコーンのモデル候補!エラスモテリウムを検証~まとめ~
エラスモテリウムを紹介してきました。
額に角を持つ変なサイ。
どうやら人類とも共存していたようです。
さらに、馬のような体型だったら。
「ユニコーンのモデルか?」
とされるのは当然でしょう。
額から角なんて、このエラスモテリウムくらいなんですから。
古代の大型獣が思ったよりも生き延び、
人類の目に触れ、伝説に転化した。
そんな例は多いのかもしれません。
エラスモテリウムも、古代ロマンのひとつといえそうですね。