
「スーパーKによる殺人」
ちょっと面白そうな推理小説にも思えます。
しかし、これは人食いクマの獣害事件。
4人が犠牲となり、負傷者もいる、身も凍るような実話なんです!
もし、あなたが
「クマの事件なんて、どうせ北海道でしょ」
「まだ山が手入れされていない昔の話じゃないの」
なんて思っていたら大間違い。
ほんの数年前、秋田県で起こった事件です。
その人食いクマが「スーパーK」と名付けられた。
秋田にいるのはツキノワグマですよね。
北海道のヒグマに比べたら、
小さく、おとなしいと思っていませんか?
甘い、甘い!
小ぶりでもクマはクマ。
人間を一撃で仕留めるパワーもあるし、
人食いだってするのです。
そんなツキノワグマが、
本州と四国にも生息しているなんて……。
この事件は一応、加害熊が射殺されて決着しています。
しかし、
「人食いクマの脅威はまだ去っていない」
という人もいる。
スーパーKの凶行と、事件の終結。
さらに、本当に事件は終わったのかも、
検証してみたいと思います。
目次
人食いクマ?スーパーK
十和利山熊襲撃事件
この獣害事件はそう呼ばれています。
むしろ、
スーパーKよりも、この名前で知られているでしょう。
事の起こりは2016年の5月。
秋田県鹿角市の十和利山の山麓。
「熊取平(くまとりたい)」と呼ばれる一帯。
地元の人々が、
山菜採りに多く入る場所です。
事件のはじまり
5月21日。
79歳の男性が遺体で発見されます。
男性は前日、
タケノコの一種「ネマガリダケ」を採りに出かけ、
行方がわからなくなっていたのです。
遺体に残る噛み痕や爪痕。
「クマだな……」
すぐに判断できました。
ネマガリダケはクマの好物。
鉢合わせして、やられたのでしょう。
同じ日にやはり、
山菜採りに来ていた夫婦がツキノワグマに襲われ、
怪我を負っています。
ツキノワグマについて、プチ説明を。
日本では本州と、四国の一部で見られます。
体長は1.2~1.8mで、体重は50~120kg。(メスは60kgで小さめ)
胸に白い三日月模様があるのが特徴です。
警戒心が強く、人間を見ればすぐ逃げる。
でも、たまには被害も。
2006年には、乗鞍岳で10人が襲われ負傷していますし、
インドでは、25人殺した例もあります。
襲撃の多くは、
「出産前後で気が立っていた」
「急に人と出くわし驚いて」
などが理由です。
人食いはほとんど見られません。
ところが、見つかった遺体は、
間違いなく食害を受けていました。
「ツキノワグマが人を食う……?」
1988年には、
山形県で3人が食われた例もありますが、
滅多にないことです。
ありえないと思われていたことが、事実起こっている。
一応、注意を呼びかける立札を設置。
しかし、これは予兆にすぎませんでした。
狙いは人肉?増える犠牲者
翌日、5月22日。
朝、タケノコ採りに来ていた老齢の夫婦が、
ツキノワグマに襲われます。
夫に「逃げろ!」と言われ、妻はなんとかその場を脱します。
妻からの通報で、捜索隊が入山。
昼過ぎ、夫は無残な姿で発見されました。
前日の遺体の発見場所から、
800m離れた地点。
やはり、食害に遭っていました。
立て続けに起こった、
ツキノワグマの人食い事件。
「こりゃ、ただごとではないぞ」
心配もむなしく被害は増え続けます。
25日には65歳の男性が行方不明。
26日に50代の男性が襲われるも、
手作りの竹槍でなんとか撃退。
そのとき、クマの鼻には血らしきものが付いていました。
29日には70代の女性が尻を咬まれますが、
一緒にいた息子がナタで追い払い、
軽傷で済む。
30日には、行方不明だった65歳男性が遺体で発見。
竹槍で撃退されたクマは、
この3番目の犠牲者を食した後だったのでしょう。
当然、一帯は立ち入り禁止に。
八幡平クマ牧場事件でも活躍した、
ハンターの斎藤良悦氏も熊取平へ入ります。
日本ツキノワグマ研究所の、
米田(まいた)一彦氏も、
本部の広島から到着。
米田さんは、
聞き込みから「ある仮説」を立てました。
2番目の犠牲者は草原で見つかった。
これはおかしい。
ツキノワグマは臆病で、丸見えの平地には出ないものです。
開けた場所まで逃げれば、普通そこまで追ってきません。
「はじめから人を食うのが目的だった」
そう思うしかない。
被害者には、クマ除けの鈴や笛を持った人もいました。
人間がいることを音で知らせ、クマが近づかないようにする。
「クマの目的が人肉なら、逆に音がクマを呼んだかもしれない」
明らかに人を狙って、食おうとする凶暴クマがいる!
その推理を裏づけるように、クマの凶行は止まりません。
人食いクマは一頭じゃない!
6月10日。
3日前から行方不明の70代女性が遺体で見つかります。
しかし、今回はそのすぐ近くにクマがいました。
斎藤さんらハンターが集結。
ついにクマが仕留められます。
その胃の中から人体の一部も出てきた。
「こいつが4人殺して食ったクマか。これで安心だ」
皆が胸をなでおろす。
ただ、米田さんは不安を覚えます。
「4人食べたにしては量が少ない」
「射殺されたのはメス。メスはそこまで凶暴ではない」
「人食いには数頭の他のクマが参加しているのではないか」
「主犯のオスがいるに違いない」
「スーパーK」!
米田さんは、そのオスをそう呼ぶことにしました。
Kは鹿角市の頭文字。
「すごい鹿角の人食いクマ」
ってことですね。
米田さん、ネーミングセンスはいまひとつのようです。
その後、死者は出ませんでしたが、
いくつかのクマの襲撃事件がありました。
やはり、
人肉を求める別なクマがいるようです。
スーパーKか?
こいつを倒さねば、事件は終わりません。
被害拡大の理由と事件の決着
米田さんは加害熊を5頭と考えました。
第二現場近くで目撃された
① 赤毛のメスのクマ
② 赤毛の子と思われるオスのクマ
第三現場近くで目撃された
③ 気の荒いメスのクマ
第四現場にいた
④ 射殺されたメス熊
⑤ ④の子と思われる額に傷のあるオスのクマ
調査を進め、
「スーパーKは②だ」
と結論します。
おそらく、人間を殺害したのは②。
① は殺人に協力したかもしれない。
他は、その遺体を食べただけと考えました。
「人の味を覚えたクマは、再び人を食おうとする」
これはクマの常識。
危険なクマはまだ熊取平をうろついていたのです。
なぜ人が襲われ続けたのか?
夏になると、被害は見られなくなります。
事件が周知され、人が行かなくなったからですが、
山菜採りシーズンが終わったからという理由もあります。
実は、立ち入り禁止後も山菜を採る人が、後を絶たなかった。
・ネマガリダケが儲けになる
・クマ事件で山菜採りのライバルが減り、多く収穫できる
・「自分は大丈夫」と思い込む
分別があるはずの高齢者が特に多かった。
人生経験が豊富なぶん、根拠のない自信も大きいわけです。
コロナ感染でも似たようなことありましたよね。
「ルール破って痛い目に遭っても自業自得だ」
と叩かれる。
山菜採りの人全体が、
非難を浴びるような、
二次災害も加わりました。
そんな騒動をみんなが忘れかけた頃。
事件はあっさりと終わります。
スーパーKの死
被害が聞かれなくなって、
2ヶ月ほど経った9月3日。
罠の檻に一頭のオス熊が捕まりました。
推定4才、84kgで、檻の中で大暴れ。
これがスーパーKだったのです。
すぐに殺処分。
ハンターとの死闘とか、
ドラマな展開もなし。
凶悪犯の最期なんて、得てしてあっけないのかもしれません。
スーパーKの死をもって、
十和利山熊襲撃事件は終結しました。
「死者4人、重軽傷者4人、襲撃を逃れた人5人」。
「本州最悪」で、「平成最大」の獣害事件となりました。
でも、待ってください。
人食いクマは5頭で、駆除されたのは2頭。
3頭残っているじゃありませんか!
人食いはまた起こる?
米田さんも危惧しています。
人食いに参加したツキノワグマはまだいる。
事件は数年前なので、今も生きていると思われます。
「同じ被害がまた出るかもしれない」
その可能性は高いのです。
前項で紹介した5頭。
内、スーパーKの②と、その場で駆除された④はいません。
①と③はメス。
子を産み、人の味を教えるかもしれません。
もっとも危険なのは、⑤の額に傷のあるオスのクマ。
まだ若く、活動的です。
現在、熊取平は入林禁止。
道路も封鎖され、近づくこともできません。
あれほどの惨事があったのだから当然です。
しかし、犠牲者のほとんどは、
立ち入りが禁じられた後に襲われています。
「自分だけは大丈夫」
そう考える人は、
いつの世にもいるものです。
事件が風化してゆけば、気も緩む。
身勝手な人が、禁を破って行くこともあるでしょう。
そして、同じようなことは、
日本のどこで起こっても、
不思議はないのです。
スーパーKの事件は、
人がルールを無視したことで拡大しました。
人食いを覚えた、
クマの住処に入りこめば……。
餌食になっても文句は言えません。
アウトドアは楽しい。
けれど、危険は避けなくてはなりません。
決まりを守り、無理はしない。
娯楽に命をかけるのは控えたほうがいいでしょう。
まとめに行く前に、追加の動画を貼っておきますね。
さらに時は経ち……
取材日.2023/08/12
終焉したと見て、米田さんは6年の調査を終えるようです。
<米田さんを取材した動画です>
米田さんお疲れ様でした。
テレビでは取り扱わないような、
とても価値の高い動画だと感じました。
スーパーKは殺処分された!その後の6年間の調査も終了~まとめ~
スーパーKが起こした十和利山熊襲撃事件。
つい最近の、
ツキノワグマによる人食いでした。
死者は4人。
日本で起こった獣害事件でも、
3番目の被害数です。
複数のツキノワグマが関わっていること。
人の勝手な振る舞いで、大きな被害になったこと。
一頭の凶獣が暴れ回る、
他の獣害とは違う要素もある事件でしたね。
自然とのつき合い方や、
危険な行動を慎む自制心。
多く学べる部分がある気がします。