現代では見られない、
「板皮(ばんぴ)類」という魚、
ダンクルオステウス。
板皮類というより、甲冑魚と言ったほうがわかりやすいかも。
鎧を着た魚です。
魚界のダースベーダーと呼ぶにふさわしいでしょう。
僕が勝手に呼んでるだけなんだけど。
ダンクルオステウスは、
今から3億8000万年ほど前の「デボン紀」にいました。
デボン紀は別名「魚の時代」。
現在の魚類のルーツが現れ、
繁栄した時代でした。
美味しいお寿司が食べられるのも、デボン紀があってこそ。
そんな魚類ビギニングの時代ですから、
今では見られない変魚も多かった。
中でも風変わりなのが、
甲冑魚ダンクルオステウスなのです。
これが見るからに、凶悪そうな面構え。
ブ厚い装甲をまとった巨大魚なのだから、
迫力満点。
魚時代の海に君臨していたのです。
でも、
ダンクルオステウスの覇権は長く続かなかった。
この強そうな魚がどんな生態で、
なぜ絶滅したのか?
化石から、ダンクルオステウスの謎が少しずつわかってきています。
目次
デボン紀最強!ダンクルオステウスの紹介!
甲冑魚は、デボン紀の前のシルル紀末には出現していました。
デボン紀になって多様化。
しかし、ほとんどは数十cm程度。
3,000万年ほどの進化の末に登場したのが、
巨大なダンクルオステウスです。
厳密には、
板皮綱ディニクティス科ダンクルオステウス。
生物の分類の話です。
どこに属しているかということ。
今回だと、綱と科のところがそうですね。
大型甲冑魚ディニクティスにも、種類がいくつかあって、
最も大きかったのがダンクルオステウスということ。
現代の北米からヨーロッパ、北アフリカの、
沿岸部で暮らしていたようです。
まずはどんな魚だったのか紹介しましょう。
ダンクルオステウスの大きさ
ダンクルオステウスは、
大きさが6~8mくらいだったとされています。
一説には10m近かったろうとも。
大型のワンボックス車を2台から3台並べたほどもあった。
体重も1tをゆうに超えていたでしょう。
シャチくらいの大きさと思えばわかりやすいかな。
現代ではそれほど大きく感じませんが、
当時は1mを超える魚などほとんどおらず、
6mは規格外の大きさなんですよ!
数字がちょっとアバウトなのは、頭の化石しかないから。
初期魚類のダンクルオステウスは骨が軟らかめで、化石が残りにくい。
しかしそこは甲冑魚。
装甲の厚い頭部だけは残った。
で、そこから予想したのが6m以上、
10mもアリって数字。
その頭だけでも、
ダンクルオステウスの規格外さは想像できます。
頭部の装甲が厚い捕食者
ダンクルオステウスの前部。
人間でいうなら、頭から肩の辺りになるでしょうか。
骨がブ厚い板のように発達し、
重なり合っています。
ちょうど、日本の兜の後ろに下がっている、
「錣(しころ)」のような感じ。
何枚かの板を重ねて繋ぐことで、動くのを邪魔しない造りです。
ただ、下半身は板皮ではなく、普通の鱗。
甲冑というより、ヘルメットと肩ガードの魚かな。
『北斗の拳』でよく見るファッションです。
ダンクルオステウスの頭部は大きい。
歯はないのですが、
骨が牙のように発達しています。
さらに、口が上下にバカッと開いても、
重なった板皮も広がるので邪魔にならない。
そんな口で、
アンモナイトや3mもあるウミサソリなどを、
バリバリ咬み砕いていたようです。
咬む力はティラノサウルスに匹敵。
口の開閉スピードは0.05秒。
攻撃力と防御力を併せ持つ、泳ぐ重機のような魚だった。
一方で、ダンクルオステウスの後方部分は今も謎です。
サメのような尾ビレがあったのか?
ヘビのように先細りしていたのか?
復元図では尾ビレ有りの絵をよく見ますね。
鱗状だったとは思うのですが、形がわからない。
ここも想像力を刺激されます。
まあ、頭だけでもかなりのインパクトですが。
こんな魚が泳いでいたなんて、
デボン紀の海はどんだけ修羅の国だったんだと思う。
ダンクルオステウスも、
熾烈な生存競争の末に登場してきた怪魚だったようですよ。
ダンクルオステウス誕生の背景
デボン紀は魚の時代と言いました。
あらゆる魚類が誕生し、多様化していったから。
だけどそれは、
「海が暮らしにくくなっていた」
ともいえるのです。
魚は水中に特化した生物。
そんな生物が増えれば、海の弱肉強食はシビアになります。
魚たちは身を守る術を見つけねばなりません。
甲冑魚もそれが理由だったのでしょう。
現在主流の硬骨魚が現れたのもこの時代。
しかし、硬い魚が増えれば食事がやりにくくなる。
ダンクルオステウスの、あの歯のようなものは、
実際は歯ではないですしね。
だから、よく噛んで咀嚼とか出来ないわけですね。
そのまま丸飲みか、粗く解体してから丸飲みです。
消化しきれなかった骨は吐き出していたとされています。
そこで、
甲冑魚も守ってばかりいられずに大型化。
その完成形がダンクルオステウスといえそうです。
こうして最強となったダンクルオステウス。
魚の時代、
デボン紀の完成形ともいえるでしょう。
でも、その支配は数百万年くらいと、短いものだったようです。
魚の時代が終わろうとしていました。
ダンクルオステウスの絶滅
ダンクルオステウスの絶滅理由は、
よくわかっていません。
単に時代の流れとも考えられます。
もしかしたら、ダンクルオステウスとは別に誕生した、
魚の時代の最高傑作が原因かもしれません。
最強の敵サメVSダンクルオステウス
デボン紀に出現した魚で、
僕らが知っているのはシーラカンスでしょう。
デボン紀には魚の繁栄以外に、
もうひとつ重要なイノベーションがありました。
魚が陸に上がって、両生類が生まれたことです。
シーラカンスは頑丈なひれを持ち、陸に上がる一歩手前の魚。
また、肺魚、ガー、
熱帯魚ファンにはお馴染のポリプテルスなどの祖先も登場。
みんなレトロな魚ですね。
そして海の帝王サメも、
実はデボン紀生まれ。
ダンクルオステウスは、サメとの競合に敗れて滅んだ。
そんな一説があるのです。
ダンクルオステウスの泳ぐスピードは、速くなかったそうです。
でも、この頃の魚はみんなノロマだった。
ダンクルオステウスは、むしろ速いほうでした。
ところが、サメはあまりにも傑作すぎる。
海に君臨するために生まれたような完全王者です。
水泳力、狩猟能力、タフさ……
圧倒的ですよ。
6mを超えるダンクルオステウスさえ餌にしたでしょう。
当然、食料の奪い合いでもダンクルオステウスは分が悪い。
巨体の横綱が若手の力士に座を奪われるように、
旧式のダンクルオステウスは、サメに王座を渡したのかもしれません。
もちろん、
デボン紀の終わりに飲み込まれた可能性もあります。
デボン紀の終焉、その魅力とは?
このサイトでもよく紹介する『古生代』。
カンブリア紀(約5億年前)を皮切りに、
オルドビス紀、シルル紀、デボン紀、
石炭紀、ペルム紀と続きます。
その後は恐竜が現れる中生代、
恐竜絶滅後の新生代です。
これらの紀元の節目には、必ず大絶滅がある。
その試練を乗り越えないと、次の世代に進めないのです。
デボン紀の終わりにも大絶滅がありました。
地球史上、
最も有名なトップ5の大絶滅の中でも、
1番原因がハッキリしていない、
謎に包まれた大絶滅です。
寒冷化と酸素濃度の減少、海面の低下……。
デボン紀後期のダンクルオステウスも、
この環境変化の煽りを受けます。
甲冑魚は名前の通り古い魚。
構造が特異で、
いろんな意味で柔軟性がなさそう。
ましてダンクルオステウスは大きさもある。
逃げ場もありません。
この大絶滅で、海洋生物の8割が滅亡しました。
板皮類もダンクルオステウスを含め、すべて滅んだのです。
現在、板皮類はいません。
板皮類と似た、あるいは痕跡が残っている生物もない。
いかに特殊な魚だったのかわかるでしょう。
進化的にはなにも残さず、
ただ現れて消えたのです。
デボン紀という魚の躍進期に、あれこれとやっているうちに生まれ、
ダンクルオステウスにまで登りつめた。
実はそんな魚が、デボン紀はとても多い。
体中トゲトゲの棘魚類。
背中にラッパみたいなひれをつけた、
ステタカントゥス。
カブトエビのようなドレパナスピス。
胴体が蛇腹のアングラスピスなど。
「何をしたかったんだ?」
と問いただしたい魚がいるいる。
魚が悪ノリした時代です。
そこから陸へ上がろうとした魚がいた。
そこは、先行した植物と昆虫のいる新天地。
僕らの先祖の脊椎動物が、ついに陸に上がった。
母なる海から生物が巣立ちしたのが、デボン紀なのですね。
最強を誇ったダンクルオステウスとともに、
彼らは進化の記憶に刻まれる「変わり者」なんだと思うのです。
短かった最強の座!ダンクルオステウスの大きさや生態~まとめ~
デボン紀を代表する板皮類ダンクルオステウス。
変魚が溢れるデボン紀の海で、最大の捕食者になりました。
6m以上の巨体は、まさに海の王だったでしょう。
その異様な姿!
以降に登場する、
モササウルスやメガロドンといった海の王者と比べても、
引けを取りません。
しかし、王座に就いたタイミングが悪すぎた。
デボン紀の大絶滅前夜で、短い支配者だったのです。
明智光秀とか徳川慶喜みたい。
そんな悲哀を感じられる王者でもあったんですね。