「50cmのゴキブリがいた時代もあった」
そう聞いたら、誰もが震え上がるんじゃないでしょうか。
そんなサイズのGが向かってきたら……。
ミサイルより怖いわ!
はるか昔、巨大昆虫が蠢いていた時代が本当にありました。
『石炭紀』。
3億年も昔のこと。
石炭にゴキ……ブラックな時代の香り。
もちろん、真っ暗闇な時代ってわけじゃない。
むしろ、生命力に溢れた「光の時代」といえるかもしれません。
ちょっと地味だけど、実は重要な転換期だったのが「石炭紀」。
地球上にくまなく生命が誕生したのです。
まさに地球史のグローリーデイズ!
大昆虫時代・石炭紀を解説しますよ。
目次
石炭紀はどんな時代?
少しだけ歴史、
というか紀元の復習を。
今から5億年ほど前、多細胞生物がドカンと増えました。
これがカンブリア紀で、
ここから「古生代」という大きな地質年代が、
約3億年続く。
その後、恐竜時代の「中生代」、
哺乳類時代の「新生代」となるのですが、
今回はスルー。
で、古生代が6つの紀元に分けられています。
カンブリア紀、オルドビス紀、シルル紀、
デボン紀、石炭紀、ペルム紀。
「香る死で石炭ペッ(カ・オル・シ・デ・石炭・ペ)」が僕の覚え方。
「ペッ」の意味は気にしないでね。
今回のテーマ「石炭紀」は、
古生代5番目の区分です。
それは、
僕ら陸上で暮らす生物の、基礎となった時代でした。
植物と虫が栄えた石炭紀
古生代6紀で、石炭紀だけが漢字。
ペルム紀は「二畳紀」ともいうのですが、
他がカタカナなのに石炭紀だけちょっと異質。
これは、その地層で石炭がよく採れるからです。
石炭は植物の化石。
実は、この当時まだ植物を腐敗させる菌類がなく、化石も残りやすかった。
ここから、石炭紀は植物が繁栄した時代だとわかります。
期間でいうと、
今から約3億5920万年前~2億9900万年前。
ざっと6000万年くらいあったんですね。
歴史は「点」よりも「線」で覚えるのがコツ。
流れを知れば、出来事の前後関係も理解できる。
なので、まず古生代の流れをざっくりと。
海で多細胞生物が増え始めたカンブリア紀。
次のオルドビス紀では多様化が進み、
シルル紀になると、陸上にも上がる種が現れます。
デボン紀は魚類が繁栄した「魚の時代」。
一方、シルル紀に陸上進出した少数派が、
デボン紀の間に着々と環境を整え、
爆発したのが石炭紀なのです。
陸上生物のビッグバン。
石炭紀はそう捉えることができます。
ちなみにこの頃は、
『北のユーラメリカ』と『南のゴンドワナ』
の二大陸。
この二つがくっついたのが『超大陸パンゲア』です。
パンゲアになったペルム紀に、
その陸上生物が爬虫類となり、恐竜時代の中生代へ進む。
古生代の流れ、なんとなく理解できました?
もっと詳しく知りたい方はこちらの動画で。
分かりやすいですよ。
石炭紀は陸上で生物が蠢きだした時代。
とはいえ、まだまだ古代の植物と、節足動物がほとんどでした。
石炭紀は「植物」と「虫」が主役なのです。
さあ、忌まわしきゴキさんたちが登場しますよ!
巨大植物!巨大昆虫!
陸地に植物が茂った石炭紀。
中でもシダ植物が目立ちました。
シダ類は今でもよく見られる。
ソテツとか、観葉植物のアジアンタムとか。
ワラビやゼンマイ、ツクシ(スギナ)など馴染みの山菜もシダ類。
でも、石炭紀のシダはスケールが違う。
高さが30mもある巨大シダが大森林を作っていたのです。
それらの植物が、地上の環境を大きく変えていました。
植物は二酸化炭素(CO2)を吸って、酸素を出す。
小学校の理科の授業で習いますね。
植物の時代である石炭紀は、酸素濃度が高かった。
現在の酸素濃度21%に対し、35%くらいもあったらしい。
つまり、大気の3分の1が酸素。
しかも、気候も温暖だった。
この暖かさと濃い~空気の中で、虫が巨大化しちゃうんです。
巨大化の謎
虫は植物からやや遅れて、
陸に上がった節足動物。
最初はまだミジンコのレベルでした。
しかし、やがて羽を持ち、陸地に広まります。
それが石炭紀の環境で、あり得ない大きさになっちゃいました。
・空を飛ぶ70cmのトンボ『メガネウラ』。
・地を這う3mのヤスデ『アースロプレウラ』。
・水辺には2mを超える『ウミサソリ』。
これが石炭紀のBIG3。
でも、どうして酸素濃度が高いと虫の巨大化が起こるんでしょう?
これには説が2つあります。
節足動物は体中にある気門から酸素を取り込み、
直接細胞に供給します。
だから「肺」がない。
この方式は「効率的」である反面、
けっこう重労働なのです。
だから虫は運動能力が高いけれど、大きくなれない。
酸素濃度が高ければ、呼吸するエネルギーは少なく済む。
その分、体を大きくできた。
これが定説なのですが、近年新しい説も出てきました。
濃い酸素は毒性も強い。
濃度が1%上がるだけでも、人間は全滅するといわれるくらい。
虫は毒性のある大気に抵抗するため、
大きくなるしかなかったというもの。
どちらにしても、石炭紀は虫がデカかった。
BIG3だけじゃありません!
羽を広げると50cm近いカゲロウ。
30cm以上もあるクモのような多足類。
ネコぐらいもあるセミ『メゾサイロス』。
そして、大ゴキブリが這いまわる世界でした。
ゴキブリ50cmの真実
「石炭紀のゴキブリは50cmもあった」
ネットで石炭紀を調べれば、上位にそんな記事が必ずある。
みんな、どんだけゴキブリが気になるの……?
これは『アプソロブラッティナ』のことです。
石炭紀にいた昆虫の一種。
ちょっと見た目は違うんですが、
長い触覚と平らな体はゴキブリに違いない。
雑食性だったらしく、生態も同じと考えられる。
「ゴキブリは3億年前からいる」
というのは、
石炭紀にこのアプソロブラッティナがいたからなのです。
「アプソロブラッティナは50cmもあった、ゴキブリの祖先」
と一般的になっています。
ところが、これがデタラメ。
アプソロブラッティナの大きさは50mm程度。
よく見て!50“センチ”じゃなく、50“ミリ”ですよ!
つまり、5センチ。
大きくても10cmなかったことは化石ではっきりしている。
さらに、
ゴキブリの直接の祖先でないことも判明。
やはり石炭紀にいた、
『プロトファスマ』という現在のヘビトンボに似た別な昆虫が、
ゴキブリやバッタへと進化したと推測されています。
「50cmのゴキブリ」は、
石炭紀の巨大昆虫と、大衆のゴキブリに対する、
「いろんな意味での好奇心」
が生み出したデマみたいですね。
でも、15cmくらいのゴキブリ的な虫がうろついていた可能性はあるでしょう。
虫嫌いにはホラーな世界です。
でも、幸運なことに現在の虫は小さい。
もちろん、酸素濃度が減ったからです。
それは石炭紀の終わりを意味していました。
単弓類の誕生~しかし……
石炭紀は陸上生物がだいたい揃った時代でもある。
植物と虫が先行し、
海から上がった魚が両生類へと進化した。
そこから爬虫類と鳥になる竜弓類。
哺乳類へとなる獣弓類。
まとめて『単弓類』という生物も登場します。
現代の主役となる生き物も、
石炭紀が発祥。
それらは、豊富な植物の恩恵を受けていたんでしょう。
しかし、考えてみてください。
自然破壊が進み、CO2が増えて温暖化しているという現代。
石炭紀は逆に、植物が多すぎてCO2が足りない。
人間と植物のバランスが逆ですから、寒冷化になるのです。
石炭紀の終わり
石炭紀の後期は氷河期です。
温暖だった気温は下がり、植物を腐らせる菌類も現れた。
植物は減ってゆく運命ですよ。
当然、酸素濃度も下がります。
すると、昆虫たちは大きな体がむしろ負担になる。
巨大昆虫も生きにくくなったのです。
植物・虫を餌にしていた両生類、単弓類にも深刻な事態。
しかも、この頃は前に書いたように、
超巨大大陸パンゲアの創成期。
地殻も不安定で、地震や火山も多かったと思われます。
環境の変化に弱い虫なんてイチコロですよ。
こうして巨大昆虫は徐々に姿を消してゆきます。
一部は次のペルム紀、
さらに恐竜時代まで残っていたようですが、
鳥型の恐竜が現れると制空権を失って、
小型化にシフトしていったようですね。
劇的な大量絶滅ではないのですが、
石炭紀の後期は、
ゆっくりと首を絞められるように動植物が衰退し、終わりを迎えた印象です。
高い酸素濃度がもたらした、
奇跡的な数千万年の『緑の世界』。
石炭紀は生命力に溢れる、ワイルドな時代だったのでしょう。
虫と植物と単弓類!陸上生物が揃った時代~まとめ~
石炭紀は、『ナウシカ』の世界観に近いでしょう。
巨大な植物と虫の世界。
ファンタジック?
それともおぞましい?
とにかく、今では信じられない世界ですね。
それを可能にしたのが、酸素35%の大気。
豊富な植物が作った特殊な環境ですが、
寒冷化を引き起こした。
それで植物自身がダメージを受けるのだから、
自業自得なんですが。
石炭紀は結局、
植物の繁栄と衰退に、動物がとばっちりを食った時代ともいえる。
まあ、巨大昆虫は生き残ってくれなくて良かった……
のかな。